岐阜支部 店舗インタビュー
第6回 コーヒーばかの店(エフイーエム有限会社)

運営サイト コーヒーばかの店

ばかまじめ
堀:最初に気になることからお聞きしますが、『コーヒーばかの店』とは思いきったネーミングにされましたよね?
廣瀬:マーケティングリサーチ会社に務めていた経験から○○珈琲店と名乗っても埋もれてしまうと考え、『何屋か判りやすい』『覚えてもらえるインパクト』を重視し【コーヒーばかの店】と名付けました。
いろいろ悩み抜いたのですが、当時、とあるEC店舗の店長さんが『うどんバカ』と名乗っているのを見て、その振り切れた感にインスパイアされたのもありましたね。でも『バカ』には、バカまじめという想いを込めているんですよ。決してふざけていませんので(笑)とにかく味には自信があるので“買ってもらう”ためのネーミングでもあります。
堀:確かに『コーヒーばかの店』のページ作りには『まじめ』さを感じますね。ところでEC参入は喫茶店の新規事業だったのですか?
廣瀬:脱サラして2006年4月に店舗を開業させたのですが、個人的に『紅茶』が好きだったので最初は紅茶メインの喫茶店をやっていました。
しかし、正直言ってなかなか軌道に乗らなかった・・・。これではダメだと思い、店舗オープンした年の12月にbidders(現DeNAショッピング)に出店したんですね。
当時、ちょうどモバイルECが活況の頃で『今さら楽天だと遅いだろう』という思いもあったし、何よりモバイルだと表示バイト数の関係で表現できる容量に制限がある。だからこそ、資本力に関係なく表現力で勝負できると思い、biddersに決めたんです。紅茶をメインにケーキ、ジャム、オーガニックジュース、生チョコ、雑貨や家具を販売していました。
売れ筋品を見切り新天地へ

堀:『大手資本に負けない』を考えたからこそbiddersだったんですね。しかし、当初紅茶メインだったのが、どのような経緯で『コーヒーばかの店』へ変遷をたどったのですか?
廣瀬:biddersでは生チョコが売れ月間で2~300万の売上にはなったのですが、メインとなる紅茶が売れなかった。さらに生チョコは自社製造なので、売れれば売れるほど“作って梱包・発送と作業量が増加。正直、しんどい。『どうしよう??』と悩み、サポート担当にbidders市場規模を確認したら紅茶は驚くほど小さく、コーヒーは紅茶よりちょっと売れている程度。モール自体の“規模”の限界を感じ、愕然としましたね。ちょうどその頃、当社の生チョコ販売が好調との噂を聞きつけた『コーヒー豆』の卸会社から『豆を売らないか?』とお誘いがありました。
それで、どうせ仕切りなおすならば規模の大きな【楽天】で勝負をしよう!と・・・2008年9月に『コーヒーばかの店』を出店。同じ年の12月にはbiddersを閉店し『コーヒーばかの店』に経営資源を集中させました。
堀:売れていた商材に見切りをつけ、『コーヒー豆』という新たな商材で新天地『楽天』に挑む・・・思い切った判断でしたね。上手くいきましたか?
廣瀬:生活していく為には『やるしかない!』と思って毎日、実店舗の営業をこなしながら深夜2~3時まで働いていたのですが、安定した売上になるのに3年はかかりました。 ジャンル的にコーヒー豆は『澤井珈琲』と『加藤珈琲店』の先行する2強が市場を寡占しており、新規参入が想像していた以上に厳しかった。とにかく当社の豆を飲んでもらわないとハナシにならない・・・と思い、広告を使い新規顧客を集めることに惜しまず投資しました。中には100万円の広告なのに売上が30万という事もありましたが、一時的な費用対効果は度外視して、まずは飲んでもらおうという戦略でしたね。最初の1年は30万~60万円の月商が続き、苦しかった。
『ぽっきり』に活路を見出す
堀:積極的に広告費を投入されたとのことですが、それでも大手との体力差はあると思います。他に何か工夫された事は?
廣瀬:当時、ちょうどマクドナルドの100円マックが話題で、切りの良い「ジャストプライス」という手法を真似しようと思ったんですね。そこで1000円ぽっきりのコーヒー豆をラインアップし、お客さまが『買ってみようかな?』と思える買い物のしやすさを演出しました。
ただし、利益は下がるので豆屋さんには当社の販売戦略を説明し理解の上で、仕入れ価格を圧縮することも行いました。
粗利から逆算し、上限で売上の20%までなら広告費に投入できると算定。1000円ぽっきり商品の広告露出を増やした目論見が当たり、売上はアップ。さらにその原資で広告費を増やし、どんどん新規客を獲得しリピートも増える・・・と好循環になり月商300万円まで一気に駆け上がりました。正直、この頃は『円高』『原料安』という恵まれた環境があったからこそ出来た販促方法ですけどね。
堀:ぽっきり商品を先駆けて出されたんですね。でも真似をする店舗は出てきませんでしたか?
廣瀬:成功事例=類似が多発・・・そこがモールの怖いところでもありますよね。真似をする店舗が続出し、ひどい店舗などは文言も商品画像も完全コピーして出品している。商売人としての良心のカケラすら無いのか!と怒りたくなる気持ちでした。
でもコピー商品が出回ること自体、ホンモノの証であり、お客様にとって必要なサービスだと考えるようにしたんです。そうすると『お客様のために・・・』と願う『商売の本質』は簡単には真似されない思えるようになり、さらなる工夫を追い求めるきっかけにもなりましたね。
堀:それは具体的にどんな取り組みですか?

廣瀬:1000円ぽっきりはヤマト運輸のDM便(旧メール便)で送料を抑えられるからこそ商品化できます。でも受け取り印を必要とせず郵便ポストに投函されるDM便には、誤配というリスクが伴う。そこでDM便のシートに『投函前に再度確認して下さい』と注意書きを配達員さん向けに印刷するようにしたところ、誤配が激減。また他店は、1000円で利益を出すために豆の質を落とすところがありますが、当店はリピーターになっていただくことが前提なのでクオリティは絶対に守ります。原料費を削らずにコスト下げる為には人件費の圧縮が必須。そこで考えたのが作業効率の見直し。そのひとつが受注方法の工夫です。
豆の挽き方に『豆のまま』『粗挽き』『中挽き』『細挽き』があるのですが、そのままお客様に選択を促すとオーダーがバラつく。そこに『「店長おまかせ」で挽く』を追加し、例えばおまかせが中挽きの場合、5通りの選択なのに実際は5通り中2つは同じ挽き方。つまり『「店長おまかせ」で挽く』の選択が無い時は1/4(25%)の確率で様々なオーダーが入るけど、『「店長おまかせ」で挽く』があると2/5(40%)は中挽きになり、オーダーの予測が立てやすくなる。実際には『「店長おまかせ」で挽く』を選択される方が多いので作業効率はもっと上がっています。

堀:見かけの選択肢を増やし効率化につなげる発想も素晴らしいですが、何より『「店長おまかせ」で挽く』を選択されるお客様が多いという事実が、信頼されている証拠でもありますよね。
廣瀬:最初にも話しましたが『バカまじめ』をモットーに徹底的にまじめさを意識しているので、その点がお客様に信頼されているのかもしれません。
『生豆』を2~3粒小袋に入れてメッセージ付きで商品に同梱しているのですが、行為だけを見ると“捨てるだけ”の豆をなんで入れるの?と大手さんは真似しないと思うんです。でも豆へ対する想いとか愛情とかお客様には伝わる気がするんですね。他にもお客様との間で発生するメール文章は、バカ丁寧に書くようにしています。言葉ひとつひとつを慎重に選んで使っています。また、他店は“1000円ぽっきり”はお試し的存在で、気に入ったら『大きい容量』をどうぞ・・・という販売スタイルですが、当店は送料込みのぽっきり商品こそが主力であり、気に入ったら『他のポッキリ商品もどうぞ』という考え。店舗内でお客様にどんどん目移りしてもらい、浮気してもらうような品揃えを目指しています(笑)
ぽっきり商品が売れ筋であり、おすすめ商品でもあるからこそ、手を抜かずにまじめに作っている。その差がお客様に伝わっているのではないでしょうか。
円安・原料高を契機に利益重視へ
堀:話を伺うほど、店舗名が持つインパクト以上に“バカ”に込められた真摯な想いが伝わってきました。最後にコーヒーを取り巻く環境が激変している中、今後の方針をお聞かせ下さい。
廣瀬:正直、これまで積み上げてきた手法が原料高で通用しにくい環境になっています。いろいろ悩む中、外部コンサルタントの意見に耳を傾け、現状では売上規模ではなく利益重視の施策へ軸足を移しています。値上げをすることで利益を増やす。もちろん値上げ理由は“バカまじめ”にお客様に伝えてきました。一時的な売上ダウンはありましたが結果的に客足は戻り、『コーヒーばかの店』の存在価値を認めていただいている…と実感できた値上げでした。
今はとにかく、お客様の期待に応えられるようブレンドコーヒーの価値を磨いているところです。一般の方にはストレートコーヒーが“高級品”というイメージがあるかもしれませんが、ストレートという単体の豆に比べブレンドは“豆を掛け合わせ美味しさを引き出す”という技術が必要なんですね。キャリアに基づくブレンド力と発想力が商品力を決定づける。だからこそ、美味しいブレンドコーヒーを提供することが価値につながる。
一方、経営的な視点では商品力と価格設定のコンセプトさえしっかりしていれば多モール展開ができると思い、amazonとYahooショッピングでの拡販に取り組んでいる最中です。
楽天では、気候が暑くなって来るとコーヒー需要減で売上が落ちるのですが、amazonだけは売れ続けている。モールごとの特長を把握することで、まずは岐阜県下でコーヒー通販ナンバー1の座を目指しています。なんと言っても、世帯当りの喫茶代年間支出額が全国1,2を争う珈琲王国の岐阜県で、コーヒー通販と言えば『コーヒーばかの店』という存在になりたいですね。
堀:もうすでに岐阜ではナンバー1ではないしょうか?(笑)
今日は、良いお話を伺う事ができました。ありがとうございます。最後に恒例のおねだりで、何か読者プレゼント下さい!
廣瀬:それでは当店の看板『信長ブレンド』をプレゼント!
堀:ありがとうございます。